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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)2408号 判決

控訴人 有限会社蟻川製作所

被控訴人 関俊雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人(原審原告)は

(1)  原判決を取消す。

(1)の1 被控訴人は本件売買に因る本件土地所有権の同人より控訴人への移転の許可を長野県知事に申請する手続をなすべし。

(2)  被控訴人は昭和四十三年十月九日の売買に因り同人所有の長野県中野市三好町一丁目三一七番の一、畑一五一三平方メートル(約四五八坪五合弱)の所有権の同人より控訴人への移転登記(申請の意思を長野地方法務局中野出張所に陳述する)手続をなすべし。

(3)  被控訴人は(2) 記載土地の内原判決末尾目録第二土地(上にある樹木等一切の物と共に其有姿の儘)を控訴人に引渡すべし。

(4)  被控訴人は金二百十万円並内金九十万円に対する昭和四十四年四月十八日以降又内金四十万円当審にて拡張請求する当審訴訟委任の代理人への報酬(着手)金に対する本控訴状の同人に送達の翌日以降並残金八十万円に対する控訴人の本件勝訴判決確定の翌日以降各完済迄の孰も年五分の金員を控訴人に支払うべし。

(5)  被控訴人は昭和四十三年十二月五日以降控訴人の本件勝訴判決確定後十一日迄の金二百万円に対する日歩金二銭三厘の中より毎一ケ暦月に満つる毎の金四千円を控除せる金員を控訴人に支払うべし。

(6)  訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とす。

との判決および(3) (4) (5) を仮に執行する事を得との宣言を求めた。

被控訴人(原審被告)は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、次のとおりである。

控訴人の請求原因ならびに抗弁に対する答弁は、原判決添附「請求原因」同じく「原告第三準備書面」中一、二、七(3) (4) 、八(5) (ロ)(ハ)、原判決事実摘示末尾釈明事項の各記載(以上の記載をここに引用する。ただし本判決別紙(一)のように訂正補充する。)のほか、本判決別紙(二)(三)(四)各記載のとおりである。

被控訴人の答弁ならびに抗弁は、原判決添附「答弁書」同じく「被告準備書面」、原判決事実摘示末尾釈明事項の認否の各記載(以上の記載をここに引用する。)のとおりである。なお被控訴人は、控訴人が当審で請求の趣旨(1) の1の請求を拡張することに同意しないとのべた。

証拠〈省略〉

理由

控訴人の請求趣旨(2) (3) の請求の請求原因は、控訴人が被控訴人から昭和四三年一〇月九日原判決目録第二記載の土地を、工場敷地に使用する目的で買いうけたから、その所有権移転登記手続と引渡を求めるというのであるが、その土地が登記簿上も現況も農地であるのに、所有権移転について農地法五条による許可を所轄県知事に申請した事実のないことは争がない。そうすると、かりに控訴人主張の売買契約締結の事実があつたとしても、契約の効果は発生していないし、控訴人に土地所有権が移転することもないから、現在の給付請求として土地所有権移転登記手続および土地引渡を請求することは、売買契約による債務の履行を求めるにしても所有権に基づくものにしても、許されないことは明らかであつて、本件(2) (3) の請求は失当といわなければならない。

控訴人は当審で新に請求趣旨(1) の1の請求を追加すると申立て、右請求は控訴人主張の売買契約の成立が肯定されるならば理由のある請求であり、この請求が認容されるときは、本件(2) (3) の請求も認容される可能性が存する。したがつて裁判所としては、証拠調により売買契約の成否を認定する段取りとなるのであるが、原審は前段の判示と同旨の見解に基づき、売買契約の成否について殆んど証拠調をしないまま原告敗訴の判決を言渡しているので、当審で事実審理の上かりに被控訴人敗訴の判決をするならば、被控訴人としては審級の利益を失うに等しい結果となる。かような場合は被控訴人に不当に不利益を被らせることに帰するから、被控訴人が(1) の1の請求の追加に不同意を表明している以上、追加を許すことは不相当であるので、これを許さないこととする。

控訴人の請求趣旨(4) (5) の請求は、すでに(2) (3) の請求が理由がないとされる以上、認容する余地はない。

よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 吉江清景)

別紙(一) 訂正と補充

(1)  原判決六丁裏末行八字目「故」を「否」

(2)  七丁表末行七字目「公」を「会」

(3)  八丁表一〇行初字「c」を「C」

(4)  九丁表六行下から七字目「再」を「其」

(5)  二二丁裏四行一六字目「証」を「請」

(6)  三二丁裏一一行「ならん」の次に上向き括弧

(7)  三四丁表九行二〇字目空白に「遁」

(8)  同一二行八字目「従」を「徒」

(9)  三六丁裏一〇行下から八字目「審」を「番」

(10) 三七丁表九行下から六字目「供託」を「供託書」

(11) 三八丁表三行一二字目と裏五行二〇字目の「翰」を「斡」

(12) 三八丁裏七行五字目「遺」を「遣」

(13) 同八行「妻女と」を削り、「妹の夫」を「妹とその夫」

(14) 三九丁表九行四字目「納」を「約」

とそれぞれ訂正または補充する。

別紙(二)

(1)  当審にて拡張せる請求即ち控訴状三控訴趣旨(4) 請求金二百十万円中の金四十万円(一丁裏十二行)は、控訴人が其代理人上野正秀に、当審訴訟委任を為す報酬(着手)金にして、本件依頼の当初に約定(甲三)せるものを支払ひし損害の賠償請求金なり。約定の此部分は第一東京弁護士会弁護士報酬規則四条、裁判上の事件は審級毎に一事件として(中略)報酬を定める(下略)に依る。

(2)  県知事の許可は民事訴訟の有効要件には非ず

(イ) 売買目的物は農地なる林檎畑にして、之が工場敷地転用の為の売買なる旨、控訴人は訴状に明記して主張せるに、県知事の其許可を得たりとは毫も主張せざるが故に、無主張は民訴上無、即ち許可未だしと主張せる事となる。

(ロ) 本件は実体法上の彼此孰れに解すべきかを迷ふが如き内容には非で行政行為に関する手続条文を読んで字の通りするにて足る極て簡単事に属す。工場敷地転用の為の農地の売買なれば、農地法第五条第一項の要知事許可性に該当す。同条第二項が準用する第三条第四項により、第五条第一項の許可を受けないでした(転用の為の所有権移転)行為は其効を生じないとせり。此発効要件たる第一項の許可とは何か。(上略農地を転用する為に所有権を)移転する場合には、省令で定める所により当事者が都道府県知事の許可を受けなければならないとあり、此許可は「省令の定むる所による許可」にして、省令とは農林省令農地法施行規則に外ならず。昭和二七年十月二七日制定第七九号、其後昭和三七年農林省令第三一号と同年第六三号とにて、一部改正と一部新設とを見たり。それによれば判決の勝訴者は単独にて(それ迄は当事者間争無くんは売買両当事者の連署を要せしを当事者間に争を生じ其判決の勝訴者の場合は連署を廃せり)該判決にて知事に許可を申請し得る事となりしが故に、知事の許可申請前に該農地所有権移転の実体上の争を生じ、之を持ち込みし民事訴訟係属中は、未だ勝訴判決を得る時期に至らざるにより「省令の定むる所による申請」なるものを為し得る時期には未到達なり。同法三条四項が謂ふ所の無効となる行為とは、同条又は五条各一項の許可を受けずにした行為(所有権移転)とあるにより、恰も売買を為す前に許可を受くべく、受けてからの売買に非ずんば無効なりと読み得るが如くなるも、決して然らば第一項の許可の発生し来る前記省令の条項は、其成立即時農地法第三条第五条の一部を為せるものなれば、結局三条五条の各一項にては許可申請を未だ為し得ざる売買なるものの存する事、該売買の実体法上の効力の確定を得てから後に知事の許可を申請しても許可するぞと謂ひ居るが故に、本件の如きは、将来県知事の許可を得る能はず、不許可と確定するかも計られざるも又許可され得るかも知れず未だ孰れとも不明なる売買にして、其実体法上の効力の確定の方は行政庁知事の行政法上の許可行為にての効力発生如何の外に在り、之とは独立して先づ司法裁判所の御判決を仰ぎつつあるなり。仮令勝訴判決を得るとも、県知事の不許可となり、又は県知事の許可は得るとも、其後に若し敗訴せば孰も所有権移転は無効となる。許可と勝訴判決と二者が揃ふて甫めて所有権移転は有効と確定す。該司法、行政の両機関は各自独立し、決して他に拘束せられざるなり。従つて再言せば当事者間に所有権移転につき争無くんば連署にて知事の許可を申請し、許可後に争を生ぜば勝訴判決を得ねばならず。

当初に争生ぜば、先づ勝訴判決を得、然る後に単独にて知事の許可を申請して許可を得ねばならざるなり。

別紙(三)

一、賠償請求せる損害中訴訟代理人弁護士への報酬

(1)  其数額と原因 控訴状三控訴趣旨(4) 金二百十万円及原判決請求原因欄二(2) (イ)と本判決別紙(二)(1) となり。

(2)  弁護士報酬は通常損害なり。

(イ) 債権取立を委任した弁護士報酬は特別事情による損害なりとの説あり(菊井、村松両氏民訴II78頁9行)其理由の明記無きも、当事者は自ら訴訟行為を為し得て弁護士に委任する要なき故、弁護士を使用する報酬は贅費なりとでも申さるならんか。決して然らず

(a) 法律に素人の当事者が自ら訴訟行為を為し得るは、現実には極て稀なる例外なるのみならず、素人の当事者には寧ろ裁判所が弁護士に委任してはと御慫慂なさるるのが殆ど例外なき例ならずや。と申す程、法律智識乏しき素人には、頗る至難、否不能と謂ふを相当とせん。

(b) 弁護士の職に在る者が事件当事者となるも、自ら訴訟行為を為す者之亦極て稀にして、必ず他の弁護士に委任するを弁護士間の慣習とさへ申すべし。

(c) 民訴一三五条弁護士の附添命令に鑑るも、弁護士が唯の法律事務の受任に非ざる事を観取し得べく、弁護士の訴訟代理委任は当事者の為さでもがなの冗にも贅にも非ず、即ち弁護士に委任する方が通常にして、委任せなくて自ら衝に当る事こそ却て特別と謂ふべく之こそ世の真情を捉ふるもの、反対説は条文に使はれたる世間離れの非法律説と謂ふべけん。

(ロ) 相手方被控訴人も亦一審以来弁護士に委任せるに非ずや。

(3)  若し特別事情と解すべしと仮定するも、事前に被告が若し契約義務を履行せずんば原告は提訴する外なく(甲八、一丁裏五行)因つて生ずる損害は、工場建設遅延に因るものは勿論、訴訟委任の弁護士報酬等全部の賠償を求めるぞと被告側に予告せり(甲十九号証及其作成名義人蟻川浩雄を証人に申請す)

(4)  予見する特別事実の中には、当該当事者の干与外の事実も包含せられ、是を普通とせん。然るに今は被控訴人にして該事実より生ずる損害を被り度くないならば、其負担せる基本義務を履行するのみにて足り、御自身の御自由に選択せられ得るなる事情なるをや。

二、同上損害中保証金に当つる資金借入利息。

(1)  其数額と原因控訴状三(5) 昭和四十三年十二月五日以降控訴人の本件勝訴判決確定後十一日迄の金二百万円に対する日歩金二銭三厘中より一ケ暦月に満つる毎に金四千円を控除せる金員と、原判決請求原因欄二(2) (ロ)となり。

(2)  保証金に充つる資金借入利息も亦通常損害なり。

(イ) 供託金には月利の年二分四厘の利息附せらる。

保証を立つるは現金(又は有価証券)を供託して為す(民訴一一二)金銭の供託は消費寄託なれば、供託所たる国は之を日本銀行をして公定日歩を下らざる利率にて市場に放出運用せしめ得るにより其手数科(1%乃至5%と聞く)を控除せるものを利得す。公定日歩一銭八厘ならば此利得は元本の約年利にての年六分二厘、一銭九厘ならば同じく約年六分六厘を夫夫下らず。此内の月利の年二分四厘を供託関係者に交付す。

(ロ) 国の支払ふ供託金利息の斯く少額なるは何故か。

(a) 保証の内、有価証券の供託は、供託関係者の為に純然と之を保管し遣はし下さるるものなり。保証の本然の姿と謂ふべし。

(b) 金銭の供託も亦同趣旨にして、利息如き如何に少額にても之を支払ふ要、些も是無きも、金銭の性質上、消費寄託し得るを幸ひ、保管の便宜上、消費寄託するもの。従つて運用利得を生ずるにより「保管し遣はす」趣旨を失はざる義を判然たらしめん為(とより考へ得ず)利得の一少部分を「御下渡し下さるもの」と観ずるを相当とせん。蓋し月利の年二分四厘が如何に時勢外れの少額なるかは、民法が金銭債権が利息をすべき場合、其率につき当事者間に約定無くんば、年五分と判定せしは、明治二十九年にして、爾来七十四年を経過せる今日、啻に我国のみならで、国際取引市場の金利の実情と如何に懸け離れ居るかの此年五分の其又半額にも及ばざるに非ずや。現行利息制限法は、昭和二十九年に、利率の最高限度を引上げ、其最低も尚年一割五分とせるのみならず、借地法十二条の第二、三項が最近昭和四十一年に新設せられ、金利一割を制定せり。後法は前法に優るにて此時に曩の年五分は年一割に改められしと思料すべきに対比せば、想半ばに過ぎん。

(ハ) 供託利息は、保証金調達用に支払ふ利息の損害性に影響せず。

(a) 使用のあて無きに現金として保持するものには非ず。金銭は金利にて市場を流れありと謂はるる事は(実際には信用度等個人差あり)敢て民法四一九に俟つ迄もなけん。一朝、保証に(其他事業に)資金の要生ぜなば、金融機関より借用せざるべからず、又借用せば足る。借入金利息は商業銀行が(相互銀行、不動産銀行、信用金庫等の孰よりも)最低なる事は公知にして、此銀行よりの借入れこそは、資金調達上、最も善管注意義務を果せるものなれば、其利息は、該資金の調達を得るに要する最少失費と謂ふべし。

或は曰はん。供託者自らの所有金員を以てせば足るに非ずやと。決して然らず。何かの用途出現し手持金(とは銀行に預けあるを指称す)の之に振り向け得るものあらば、已に他の投資に廻はし得しものなれば、之を保証用に振向けなば、此は正に銀行貸出し利息に劣らざる収益を、保証供託の為に失ふこととなるを以て、彼此等しく保証供託による失費たるを失はず。

(b) 叙上の如しとせば、自己資金なると、銀行よりの借入れなるとを問はず、金銭は当然に市場金利を生ずるものなれば、控訴人が本件保証金調達の為に、日歩二銭三厘の利息を支出するは、それが市場相場を上廻らざる以上、毫も帰責事由による失費と謂ふ事を得て、保証を立つべく命ぜられし控訴人の通常の損害と謂ふべし。

市場の普通金利が日歩二銭五厘を下らざる事は甲十七富士銀行借入金申込書、甲十四上野の蟻川芳男宛書簡十三(3) にて之を証す。尚日歩二銭三厘を年利に換算せば〇・八三九割なり。

(3)  仮処分命令も亦通常事情にして、決して特別事実には非ず。

(イ) 契約の売渡義務者売主被控訴人が該義務を履行せずんば、債権者買主控訴人は提訴の外なきは通常事実にして、之を考へざる者有らばその方こそが却つて特別事情と謂はざるべからず。況や、提訴を予告せる事(甲八、甲十九と証人蟻川浩雄を申請する事)前叙の如きなるをや。此提訴の内には、保全処分たる仮処分命令も包含せらる。保全処分は、一別件として別符号地裁はヨと番号とにて立件するも、其本質は本案に附随せる同一事件の一部にして、符号を別にする立件は、其審理手続、記録の処理、保存等につき、本案と別に扱ふが故に外ならず。

本件仮処分命令は其債務者被控訴人が本件目的土地を其北隣接者訴外春日毎時が買入れ希望を有するにより本件売買を解除し呉れと控訴人に申出でしが故の申請によるものにして之を聞きし買主控訴人が自己保護の善管注意義務を遂行せば、本件仮処分命令申請となるは、理の当然にして、控訴人のみの特異性とは決して謂ひ得ざるには非ずや。と謂ふ事程左様に被控訴人側にては、之を考ふるのが筋道にして、其然らずとせば、其方が特別なりと謂ふべき事、前叙の如し。

(ロ) 利息失費の損害打切りを被控訴人に慫慂せり。

若し仮処分命令を本案外の特別事情と解すべしと仮定するも、本代理人は本件訴状を原裁判所に提出前昭和四十四年三月二十二日被控訴人に示し、同時に同人に手交せる甲九、上野の関宛第二信(同書末尾に複写同文のもの受領の旨及三月二十二日と被控訴人手記しあり)の七にて、保証金二百万円の少くとも此時より将来の日歩二銭三厘中一ケ暦月毎の金四千円を控除する毎月約九千八百円の日々の損害の発生を打ち切りてはと、被控訴人に告知し慫慂せしも同人は之に応ぜざるなり。保証金が担保する被控訴人に生ずるかの本件損害とは、本件土地の価額が、仮処分時のものより被控訴人勝訴判決確定時のものの方が下落しある場合の其差額に外ならず。之外には想到し得ず。現時勢、土地の価額は騰貴の一途を驀進するに政府も困じ果てあるに非ずや。近き将来に下落する等到底何人も想も設けざる所ならずや。而も被控訴人は控訴人に返戻すべき売買代金内金百万円、一坪につき約二千七百円迄の下落ならば、控訴人に対する相殺にて優先賠償を得らるる本件なり。

三、代理弁護士報酬、保証金借人利息等が若し特別事情による損害なりとせられ、其賠償を求め得ずとせば、訴訟にて救済を求め得るてふ憲法の保障も空文に帰せん。世の現実の真情を把握、以て適切なる待遇の付与せられずんば、世の被害者は到底救護せらるることを得で、惹いては司法部の信頼失墜ともならずや。怖しき極みなり。

別紙(四)

(1)  本件売買に因る本件土地所有権の控訴人への移転は農地法五条一項の省令で定める所の許可を所轄県知事に申請し、該許可を受くる迄は其有効が確定せず。

(2)  右申請は土地売買両当事者の連署に依るべきも、若し売買に関し争訟有り、買主勝訴判決を得ば単独にて申請する事を得、之にて足る。

(3)  此判決は知事に対する売主の許可申請手続を命じ有るを要し、之と買主申請とにて連署となるとせらるるを農林当局の従来の御取扱例なりと承るにより、売主の該手続を求むるを要するが故なり。

(4)  右にて尽く。序に農地法解釈上の一疑点の御啓発を賜り度し。

(イ) 農林当局の右従来の御取扱例は、かの不動産登記法が登記申請は登記権利者と義務者との連署に依らしめあるが故に、一方当事者の不協力に会はば其者の申請手続を訴及し、之を命ずる判決確定を得民訴七三六により該申請意思の陳述完了し、之と他方当事者の申請と相俟ち、連署の実を挙げ居ると些も異らず。然らば農林省令たる農地法取扱規則の三十七年の改正、此は即ち農地法五条、三条各一項の改正に外ならず、は従来例を文書に表現せしのみとはならずや。

(ロ) には非で、右法条の三十七年の改正新設は、当事者間争無くば可。若し私法上の争生じ、一方当事者売主の申請協力無き場合、他方当事者買主は勝訴判決を得、以て単独申請するにて足るとせられしもの、此勝訴判決は、売主の抗争には理由無く、買主の主張是なり、該売買には瑕疵無く、私法上の権利移転は容認すべしとの司法裁判所専権(にして行政庁の所管外)の私権関係の判決が確定するを要し、又之にて足るが故には非ずや。司法裁判所々管外の行政庁専権の行政許可有らば、私権の方は可なりとの旨判示せらるることとなり、司法、行政各機関の夫夫独立専権に属する2個処分の合致を要するに外ならず。との様に農地法は読めざるか。是れ素より専ら農林当局の御考究に俟つ事項なり。右いづれならんとも国民は唯、結果をこそ念願すれ。右改正条項を読み誤れる者本代理人のみならば幸なり。

(ハ) 更に立法論に進み、抜本的に許可申請は連署には非で、単独申請にて毫末の害無きに非ずや。是をこそ斯種許可の性質上本然とはせずや。

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